月梅図 (White Plum Blossoms and Moon)

White Plum Blossoms and Moon

http://www.metmuseum.org/art/collection/search/53408

  • Title:月梅図 (White Plum Blossoms and Moon)
  • Date:宝暦5年(1755)
  • Dimensions:140.8.8×79.4cm
  • Medium:絹本着色
  • Collection:メトロポリタン美術館

作品解説

見よ。先に掲げた《梅花小禽図》(岡田美術館蔵)は、今日から眺めれば若冲以外のどんな画家にも比定することができない作品だが、どこかにまだ整理された雰囲気がうかがえた。だが、ここに描かれた梅はもはや従来の梅のすがたから変容の限りを尽したものだ。
信じられるだろうか。この梅はたった一株から成っているのである。複雑というも愚かな梅枝が、画面いっぱいにその“触手”を限りなく広げてゆく。画家としての遠慮、すなわち時代の流行を気にする抑制心などいっさい見せることなく、ここには省略もなければ、絵画としての安寧さを求める意思のひとかけらすらない。これまでの、また同時代の画家の誰とも同じような絵は描くつもりはないと深くふかく念じているひとりの画家のすがただけである。
わずかに生じた画中の隙間に「一白雪相似独清春不知」という題辞を識し、「宝暦乙亥春二月」の年紀と「平安居士若冲鈞製」の署名がある。すこぶる貴重というほかない。
宝暦乙亥年は同5年(1755)にあたるが、ご案内のごとくこの年、若冲は40歳を迎えるに際し、桝源の家督を弟の宗巌に譲って隠居の身分と成った。どこか身の置きどころのないものを抱えていた商いの道から離れ、ようやく画道に専念することが可能になった記念すべき年である。
年紀には「二月」と書かれている。数えるのも不可能なほどの白梅の花びらと蕾を描くとすれば、よほどの時間を要したであろうから、本図の制作は前年に開始されたはずだ。翌る年からの隠居に備えて若冲は梅と月を描くプランを立てていたのである。
梅も皓月も、“孤高”を象徴する。若冲は、ただ単に画家になれることだけを歓んでいるのではなく、おのれ自身にしか描けない絵を生涯描き続ける意思そのものを、この絵で表現したのだ。
『若冲ワンダフルワールド』

伊藤若冲 月梅図 (White Plum Blossoms and Moon)

伊藤若冲 月梅図 (White Plum Blossoms and Moon)

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