「壁の向こうの住人たち アメリカ右派を覆う怒りと嘆き」(A.R.ホックシールド)は読むのに疲れる本だった。
カリフォルニア大学バークレー校教授でフェミニスト社会学の第一人者であるA.R.ホックシールドが、ルイジアナ州在住の共和党支持者に対して行った10回にわたるフィールドワーク(2011年~2016年)を記録した著作。
今回またトランプが大統領に返り咲くことになり、あのむちゃくちゃな議会襲撃などがあってもなおトランプを選ぶアメリカの共和党支持者とは、いったいどんな人たちなのか、興味があってこの本を手に取った。
この本で初めて知ったのだが、読んでいてゾッとするくらいルイジアナの環境汚染はひどい
- 水辺のヌマスギが枯れる
- カエル、魚がいなくなる
- 川の水を飲んだ家畜が死ぬ
- 溝に落ちた馬がゴムの被膜に覆われて死ぬ
- 住民が次々にガンになる
だが、生まれ育った場所、やっと手に入れた住居を出ていかないといけないレベルの汚染に悩まされながらも、彼らは工場に対する規制に反対し、環境汚染に見向きもしない共和党の候補に投票し続ける。
どうしてこんなことが起きるのか。
カリフォルニア州廃棄物管理評議会が米コンサルのセレル・アソシエイツ社に「住民にとって望ましくない土地利用」にあまり抵抗を示さない地域を見つけ出すよう依頼し、セ社が出した報告書「廃棄物発電施設用地確保に関わる政治的課題」によると、「抵抗する可能性が最も低い住民特性」は以下の通り。
- 南部か中西部の小さな町に古くから暮らしている
- 学歴は高卒まで
- カトリック
- 社会問題に関心がなく、直接行動に訴える文化を持たない
- 採鉱、農耕、牧畜に従事(報告書では「天然資源を利用する職業」と呼ばれている)
- 保守的
- 共和党を支持
- 自由市場を擁護
これはアメリカだけでなく世界のどこでもあてはまりそう。
日本でも原発のような「望ましくない土地利用」で同様のことが起きている。
たしかにこの本に登場する人たちはみな信心深い。
教会は信徒に慰めを与え、支えあう場を提供するものの、環境汚染や貧困、健康障害など、彼らが耐えているものの原因をなんとかしようとはしない。
彼らは携挙を信じ、今後千年のうちに信心する者が天国へ上り、不信心者が地獄と化した地上に取り残されると日が来ると本気で信じている。
2010年の調査だが、アメリカでは41%の国民が2050年までにキリストの再臨が「おそらく」あるいは「必ず」起こると信じているという。衝撃的な数字だが、アメリカでは進化論を信じていない人が4割いるというから、でたらめな数字でもないのだろう。(ちなみに子どもに上記の人がどれくらいいると思うか尋ねてみたら、「3%」という答えが返ってきた。日本人はメディアで見聞きする機会の多い東西海岸エリアの都会だけがアメリカのイメージな人が多そうだが、全くそんなことはない)
住んでいたバイユーディンドを汚染した企業を相手取って訴訟を起こしたハロルド・モレノは言う。
「われわれがこの地球で生きられる時間は限られている。だがもし魂の救いが得られれば、天国へ行ける。天国は永遠だ。そこへ行けばもう、環境のことを悩まなくてもよくなる。それがいちばんたいせつなことだ。わたしは長い目で見ようと思っている」
確かに人生の中では自分の力ではどうしようもないことがあって、宗教で慰めや生きる力を得るのはいいと思う。だが、ここでの宗教は、信者の人生を悪いものにしていないだろうか。この頃、よく宗教の有害性について考える。