遊女歌舞伎図(出光美術館)

遊女歌舞伎図(出光美術館)

歌舞伎の舞台

遊女歌舞伎図(出光美術館)

歌舞伎を見る観客たち

作品詳細

  • Title:遊女歌舞伎図 部分 Dollying in a Teahouse:anEarly Kabuki Performance
  • Date:江戸時代 慶長~寛永期
  • Medium:一幅 紙本墨画淡彩
  • Collection:出光美術館
淡彩と金銀泥を一部用いているものの、ほぼ白描に近い作品である。
柱を背にした艶めかしい後ろ姿のかぶき者と“茶屋のかか”が見つめあい、橋掛りには床几をかついだ剽軽なポーズの猿若が舞台を指して出てくるという“茶屋遊び”の場面である。舞台上の人物構成、および観客のほとんどは図18の『遊女歌舞伎図貼付屏風』と同一であるが、本図には一層の桟敷がなく、阿国歌舞伎の画題に直接関係のない駕籠が描かれている。単に歌舞伎だけを描くのではない、画面構成に厚みをもたせようとする作者の構想の広さを感じる。
小屋の構造は図18とほぼ同じで、欄干付の橋掛りがあり、長押と舞台後部に幕を張り巡らし、観客は地面の上に座って見物をしている。伴奏楽器は太鼓・大鼓・小鼓から成り、謡を受けもつと思われる人物が右端に座っているが、独立した地謡の座はまだない。図18に描かれている舞台の床下が吹き抜けなのに対して、本図は羽目板張りである。劇場建築史の面からみると本図の舞台の方が新しい形式とも考えられる。しかし、元和年間に制作されたとされる舟木家本『洛中洛外図屏風』中に見える舞台の床下は吹き抜けのものと板張りのものの2種があるので、この点だけで絵画制作年代を決定するわけにはいかないと思われる。
描線は非常に伸びやかで勢いがあり、歌舞伎という画題でなければ中世やまと絵と見紛うほどの質の高い画風である。おそらく、中世やまと絵をよく研究、学習した絵師の作であろう。近世初期風俗画の他の作例には類を見ない品格を備えている。
『出光美術館蔵品図録 風俗画』