遊女歌舞伎図貼付屏風(出光美術館)

遊女歌舞伎図貼付屏風(出光美術館)
歌舞伎の舞台

遊女歌舞伎図貼付屏風(出光美術館)
遊女歌舞伎図貼付屏風(出光美術館)
歌舞伎を見る観客たち

作品詳細

  • Title:遊女歌舞伎図 部分 Dollying in a Teahouse:anEarly Kabuki Performance
  • Date:江戸時代 慶長~寛永期
  • Medium:二曲一双 紙本墨画淡彩
  • Collection:出光美術館
舞台は方二面、床下は吹き抜けで長押には水引幕を、囃子座と欄干のある橋掛りの後方には模様のついた幕を引いている。囃子座の後部と模様幕の裏の楽屋と思われる場所から舞台をのぞく数人の女たちは、慶長期中頃から元和期にかけて隆盛を見る遊女歌舞伎の一座の女たちであろう。
画面はほぼ中央で継ぎ目があり、図様の不連続により当初の形でないことがわかる。わずかに二本の太刀の鐺の一部が残されており、図17(『遊女歌舞伎図』)との比較・考察の結果、おそらく当初の構図は同一であったと判断される。つまり、図17に見える柱を背にして立つ後ろ姿のかぶき者の部分が欠失しているのである。
舞台上、脇柱の横に女装の狂言師の演じる“茶屋のかか”が座り、橋掛りには床几をかついだ道化役の猿若が登場してきたところである。舞台のまわりでは老若男女が貴賤取り混ぜて、思い思いの格好で演じられる劇を見ている。舞台に手をかけてよじ登ろうとする子供の帯を持って引き止める母親、若衆に酒を注がせて満足げに飲む僧形の男と、春爛漫の桜の下赤い毛氈の上に華やかな衣装をまとった人々を活き活きと臨場感豊かに描いている。観客たちのポーズや視線が現実的で自然な印象を受け、すぐれた群衆表現といえる。
画面右上には一層式の桟敷があり、屏風を引いた特別席となっている点、図17の小屋の構造と異なっている。しかし、図17と本図の共通するモチーフなどから考えて同一粉本の存在もありうるのではないだろうか。
本図には、図17のような近世初期風俗画にはめずらしい質の高い画風は見られない。しかし、群衆表現はすぐれ、陶酔する観客の熱狂・興奮に共感を寄せ得た寛永期の町絵師の手になるものと思われる。
『出光美術館蔵品図録 風俗画』