座敷八景 琴路の落雁

鈴木春信 Suzuki Harunobu 座敷八景 琴路の落雁

作品詳細

  • Title:座敷八景 琴路の落雁 Descending Geese of the Koto Bridges, from the series Eight Views of the Parlor (Zashiki hakkei)
  • Artist:鈴木春信 Suzuki Harunobu
  • Medium: 錦絵
洞庭湖周辺の景勝の地を選んだ「瀟湘八景」は、中国画に伝統的な山水画の主題であり、日本においても漢画方面の画家によって好んで描かれ、のちには「近江八景」などの名所八景ものを派生させている。その八景を、日常卑近な生活の場景に見立てて「座敷八景」と題する狂歌にうたったのは享保7年(1722)のこと、鯛屋貞柳の着想であった。明和2年の絵暦交換会に指導的な役割を果たした好事家の一人巨川(旗本大久保忠舒)は、この機知的な趣向を喜び、パトロンとして後援した春信に作画を依頼して八枚一組の摺物を制作し、知人交友の間に配布した。この初版には注文主の巨川の落款印象があるのみで、作者である春信の名は画面に見えない。
各図に2人あての女性を配し、髪を結い、琴を弾き、あるいは文を読み、綿を摘むなどの日常生活を描いたこのシリーズは、人物の姿態の多くをほとんどそのまま西川祐信の絵本から借りていることが指摘される。こうした端的な事実から予想される春信の祐信学習は、単に人物描のモデルを借りるという点にとどまるものではなかった。より重要なのは、江戸の浮世絵風俗画が失っていた自然で合理的な環境描写と、その安定した構築性を保証する構図原理とを習得したことだといえよう。祐信を通じて俯瞰、斜傾という大和絵伝統の構図法を学んだ春信は、その学習の総決算を、同じく祐信の讃美者であった巨川の摺物「座敷八景」を場として、みごとに果たし終えたのであった。
『原色日本の美術17 風俗画と浮世絵師』