『鳥獣人物戯画(鳥獣戯画)』は、甲乙丙丁の4巻からなる絵巻で、京都の高山寺に伝来する。
制作時期については、甲、乙は12世紀中ごろ、丙はその少しあと、丁は13世紀前半と推定されている。いつ高山寺に入ったかははっきりしておらず、永生16(1519)年の「東経蔵本御道具請取注文之事」(所蔵品の修理受け取りの注文票目録)に「シャレ絵三巻箱一ニ入」として初めて記録に残されている。
作者としては、江戸時代以降、模本に嗚呼絵(をこえ)の名手として『古今著聞集』に逸話が残っている鳥羽僧正覚猷の記載があるが、根拠はない。宮廷絵師説、仏絵師説、複数制作者説がある。
通常の絵巻と違って、絵を説明する詞書(ことばがき)がないため、画家がどういう意図で描いたのかについては、「年中行事を描いた」「人間社会の風刺」などさまざまな説がある。
高山寺蔵鳥羽僧正鳥獣戯画 – 国立国会図書館デジタルコレクション
※残念ながら白黒
甲巻
4巻のうちでもっとも有名。
兎や蛙が相撲(すまい)、賭弓(のりゆみ)、競馬(くらべうま)などに興じるさまを描く。
第1紙から第10紙まで下部に等間隔に並ぶ半円形の損傷があり、それ以降に損傷がないことや、脱落、錯簡の存在から、当初は2巻だったことがわかっている。
前半と後半で筆致が違うことから、複数の画家によるとする説がある。
甲巻 第2紙-第3紙
甲巻 第7紙
甲巻 第13紙-第14紙
このシーンは印地打ち(5月の節句などに行われた石投げ遊び)を表しているという説もある
甲巻 第15紙
甲巻 第17紙-第18紙
甲巻 第22紙-第23紙
読経を終えて贈り物をもらう猿の僧正。兎が持っているのは貴重な舶来品だった虎の毛皮。
断簡
甲巻の一部だったと思われる断簡は、現在5つ確認されている。
鳥獣人物戯画断簡 - 東京国立博物館
鳥獣人物戯画断簡(甲巻) – MIHO MUSEUM
長尾家旧蔵模本
長尾家旧蔵の模本は室町時代の制作とされ、現在の甲巻にない絵が存在する(高跳びや囲碁、腕相撲、首引きのシーン)。
長尾家旧蔵模本 Copy of the Kōzan-ji Chōjū Giga (Frolicking Animals) ホノルル美術館
囲碁を打つ猿と兎。この模本では猿の顔は彩色されている。
右は腕相撲をする兎と猿。左は首引きをする蛙と猿。
住吉家伝来本模本
本来の甲巻第1巻は兎と猿による競馬で始まる
右下はスタートの合図をする兎。兎は狐、猿は鹿に乗っている。
動物たちの舟遊び。笛や笙に模した草木で演奏する鼬や兎たち。このあと、現在の甲巻の水遊びの場面につながる。
乙巻
馬、牛、鷹、犬など身の回りの動物に加え、虎や象など異国の動物や、龍や獏など架空の獣も描かれている。甲巻のような擬人化はない。
唐から伝来した密教の白描図像を参考にした可能性がある。五代・北宋時代に流行した動物画の影響とする説がある。
丙巻
前半と後半で内容が異なり、前半は僧が主人公の人物遊戯図巻、後半は甲巻のように擬人化された動物が主人公の遊戯図巻になっている。人物の部分は、囲碁、将棋、双六、耳引き、首引き、にらめっこ、腰引き、闘鶏、闘犬などの勝負事が描かれている。動物の部分では競馬、祭り、験比べなどが描かれている。
丁巻
4巻の中で保存状態がもっとも良い。
自由奔放な画風で、さまざまな階層の人間の生態をはばかることなく描いている。
筆致が即興的で、独特のデフォルメが施されている。精密な描写の貴族の姿に、似絵の影響が指摘されている。