18世紀のヨーロッパでは、政治・思想・文化などあらゆる領域において、理性と進歩を信じる啓蒙主義の風潮が高まりました。
しかし、世紀末が近づくと、理性の枠内に収めきれない不合理なものや神秘的なものに対する関心が芽生えてきます。
絵画においても、夢や幻想。あるいは狂気や妄想の世界を表現しようという動きがおこります。
そのような傾向は、古典主義が深く浸透していたフランスよりも、美術の伝統が比較的浅いドイツやイギリスなどで顕著に見られました。
画家たちの多くは、基本的な造形に関しては古典的な表現形式にのっとり、古今の文学的素材から想像力を刺激する主題を選び、独自な解釈で新奇な絵画を作り出しました。
このような美術は、その過渡期的な性質から、「プレ・ロマン主義」とも呼ばれます。
スイス出身のハインリヒ・フュースリは、古典の神話やシェイクスピア、ミルトンなど幅広い文学に主題を求め、恐怖や憎悪、性的な妄想などの人間の根源的な情念を描き出しました。
彼の作品は、誇張された身ぶりや劇的な明暗の対比、しばしば画面に登場する異形のものとともに幻想性を生み出しています。
フュースリと同時代に活動し、親交のあったウィリアム・ブレイクは、詩人にして画家、版画家でした。ブレイクは、中世の彩飾写本に想を得た「彩飾刷り」において、イメージと文字を融合させた独自の芸術をつくりあげました。
その装飾性に富んだ線描形式は、19世紀末のアール・ヌーボーにも影響を与えています。