19世紀後半、機械の発達や都市の成長によって工芸の世界に転換期が訪れ、従来の手仕事による生産形態はしだいに居場所を失いつつありました。
それに対して危機感を感じ、「何が人間にとって正しい工芸やデザインか」「そのためには社会はどうあるべきか」を考え、実現のための具体的な方法を示したのがウィリアム・モリスでした。
モリスは現在「デザイン」と呼ばれている問題を生活や社会のとの関連において最初に明確に意識した人物であり、その後のデザイン思想や実践に大きな影響を及ぼしました。そのため、「モダン・デザインの父」と呼ばれます。
モリスは1834年、ロンドン近郊ウォルサムストウに生まれ、豊かな自然環境の中で育ちました。最初は建築家を目指していましたが、ラファエル前派に出会い、オクスフォード大学で友人になったバーン=ジョーンズとともにロンドンで画家を志します。
1859年、ロセッティの見出したモデル、ジェーン・バーデンと結婚。ベクスリィヒースに建築した新居レッド・ハウスのために、自らデザインしたインテリアや家具が評判となったことで、モリスは本格的にデザイン制作活動を始めます。
1861年、モリスはロンドンにモリス・マーシャル・フォークナー商会(のちのモリス商会)を設立。バーン=ジョーンズたちの協力を得て、デザイナーと職人の共同作業で制作された家具や壁紙を販売しました。
モリスはラファエル前派で中世の魅力を見出し、イメージ世界の枠を超えて、工芸・デザインの世界へ踏み出しました。その後、イギリスでは、多くの若い世代がモリスに共感し、アーツ・アンド・クラフツ運動と呼ばれる工芸運動を展開します。
アーツ・アンド・クラフツ運動は機械生産に対して手作りの復興を掲げ、ものを作ることを、人間的な仕事として取り戻そうとしました。
また、女性に対しても開かれており、それまで女性の遊び仕事とされていた刺繍などをアートとして評価しました。