30号棟脇のトンネル出入り口。
桟橋から居住区までは岸壁ぞいのトンネルを約200メートル進む。この島を始めて訪れたとき、うす暗くじめじめしたこのトンネルを進みながら私は恐怖とも戦慄ともつかぬ一種名状し難い感じに襲われたのを覚えている。かつて「二度と帰れぬ鬼ヶ島」と恐れられたあの三菱高島炭坑のさらにはずれのこの端島に送りこまれた数多くの労働者や強制連行された朝鮮人や中国人捕虜は、このトンネルを通ったあと、二度と再びシャバの空気を吸うことなく凄惨な強制労働のなかでそのみじめな一生を終えたことであろう。暗いトンネルには彼らの思いがしみついているように感じられたのであった。(片寄俊秀「軍艦島の生活環境」『軍艦島の生活<1952/1970>: 住宅学者西山夘三の端島住宅調査レポート』より)