我が唯一の望み(「一角獣を連れた貴婦人」より)

我が唯一の望み(「一角獣を連れた貴婦人」より)

作品詳細

  • Title:我が唯一の望み(「一角獣を連れた貴婦人」より)
  • Date:15世紀末
  • Dimensions:378×466cm
  • Medium:タピスリー
  • Collection:クリュニー美術館(国立中世美術館)、パリ

作品解説

「一角獣を連れた貴婦人」は、6枚一組のタピスリー(タペストリー、つづれ織り)です。中世、タピスリーは保温や装飾の目的で、聖堂や城館の壁にかけられました。14世紀後半から16世紀初頭にかけて盛んに作られ、フランス北部、フランドルの特産品となり、なかでもパリとフランス北部アラスのものが有名でした。

この連作は、背景の千花模様(ミルフルール)と貴婦人の服装から、15世紀末の作品と推測され、中世末期のゴシック美術に分類されます。

6枚のタピスリーは共通の構成をしています。背景は赤地に植物や花がちりばめられた千花模様、下に円形の濃紺の地面があり、その上に貴婦人と一角獣、獅子などが描かれています。

6連作のうちの5点は人間の五感を主題にしており、触覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚の順に肉体の欲求に近いものから精神的なものへと高まっているとされています。

本作品のタイトルは、中央の青い天幕の銘文 “ À mon seul désir(我が唯一つの望み)” からとられており、五感を統御する「心(意思)」が主題であるという説が一般的です。従来、ユニコーンは気性が荒いが、清らかな乙女だけは手なずけることができるとされていることから、この連作は恋愛、結婚を表しているとする解釈もあります。

貴婦人が、侍女が捧げ持つ小箱から取り出そうとしている(あるいは、しまおうとしている)首飾りは、婚礼のための贈りものと見ることもできます。

テント脇に立つ3つの三日月の旗の紋章から、このタピスリーはリヨン出身でフランス王に仕えたル・ヴィスト家のジャン・ル・ヴィストが注文主と推測されています。ライオン(lion)はリヨン(Lyon)、ユニコーンは足がはやい(viste)こととル・ヴィスト(Le Viste)の一致でモチーフに選ばれたと見ることもできます。

「貴婦人と一角獣」のタピスリーは、1841年にプロスペル・メリメがクルーズ県のブサック城で発見し、作家ジョルジュ・サンドが広く世に紹介したことで有名になり、クリュニー美術館に収められました。

「貴婦人と一角獣」は、リルケの小説『マルテの手記』や『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』にも取り上げられています。